国連緊急平和部隊(UNEPS)や国連PKOの実態を把握せずにその可能性を否定する人がいます。今回、その方がわざわざブログ記事を書いてくださったので、TBの形で数回のシリーズに分けて反論しようと思います。まずは、UNEPSは小沢代表が提唱する国連待機軍構想とはまったく違うものだということを申し述べておきましょう。その最大の違いは、UNEPSが個人派遣の「国連部隊」であるという点です。
尚、今回の対応は、犬塚事務所のUNEPS PR担当・勝見が個人で行っております。
尚、今回の対応は、犬塚事務所のUNEPS PR担当・勝見が個人で行っております。
国連PKOは通常の軍事作戦とは異なり、最低限の武装と人数で行われる平和維持活動です。つまりその性質からしてまったく異なるので、その運用も通常の軍事作戦とは異なります。UNEPSは当初このPKOを支援するために考えられたもので、UNEPSの働き如何によってはPKOの負担を大幅に減らします。つまり、UNEPSの導入により既存のPKOのあり方も変容するのです。
■国連PKOの実態とUNEPSの任務
PKOも含め、UNEPSは災害救援の為の派遣などは、特別な場合を除き想定していません。この特別な場合とは、「多くの人命が失われる可能性が非常に高く、かつ当該国の政府および自治体が人道的危機を回避する能力あるいは意志を有しない場合」です(以下FAQの4を参照)。当然、スマトラにも、インドネシア政府の要請がなくまた各国独自に支援に動いていたため国連PKOは派遣されていません。任務の種類が違うからです。またPKOを大規模な治安維持部隊だと思い込んでいる人もいるようですが、この憶測も実態からかけ離れています。最近DPKO(国連PKO局)が出した2007年3月時点での派遣国上位20カ国の統計によると、先進国でも3,000人未満しか要員を派遣していません。とくにG8やP5(安保理常任理事国)では、最高でもイタリアで2,539人(8位)、次いでフランスが1,975人(10位)、中国に至っては1,809人(13位)(それぞれ★でマーク)です。上位に位置するのは、ほとんど南アジア諸国で、イタリアは南米ウルグアイより少し多いくらいです。これが、国連PKOの実態です。
(カッコ内は派遣人数)
パキスタン(10,173名)
バングラデシュ(9,675名)
インド(9,471名)
ネパール(3,626名)
ヨルダン(3,564名)
ガーナ(2,907名)
ウルグアイ(2,583名)
イタリア(2,539名)★
ナイジェリア(2,465名)
フランス(1,975名)★
セネガル(1,916名)
エチオピア(1,830名)
中国(1,809名)★
モロッコ(1,550名)
ベナン(1,342名)
ブラジル(1,277名)
南アフリカ(1,188名)
スーダン(1,164名)
ケニア(1,077名)
インドネシア(1,063名)
出典:国連PKO局:PKO制服要員派遣上位20カ国(2007年3月現在)
「Top Twenty Providers of Uniformed Personnel As of 31 March 2007」より
「Top Twenty Providers of Uniformed Personnel As of 31 March 2007」より
一方、そもそも深刻な人道的危機に対して'「予防する責任」と「対応する責任」の両輪からなる保護する責任を果たす為の初動的対応を想定されるUNEPSは、長期的にジェノサイドや人道に対する罪などを予防し対応するには、国連システム全体、ならびに国家および地域アクターなどの補完的な働きなど、広範な協力を必要とします。それでも、上記の統計を見てのとおり5,000~6,000人も部隊を派遣している(できる)国は途上国に限られ、先進国は今後もおそらく3,000人を越える要員を派遣することはないと見られます。
したがって、国連PKOの父といわれたブライアン・アークハート元国連事務次長が提案した10,000~12,000人の要員という数は、決して少なくはなく、十分に現在のPKOに匹敵する人数を想定していることになります。さらに、この想定数値は、今年度米議会に提出された決議案では上方修正され、12,000人~18,000人となっています。
■UNEPSの想定要員数は妥当常設で18,000人からなる先行隊の個人参加の国連部隊が存在すれば、既存のPKO要員とその規模を縮小でき、国連全体としてのPKO予算が軽減されます。米下院議会の見積もりでは、UNEPSにかかる費用は、初期費用に20億ドル、年間維持費が10億ドルとなっています。これは大きな数字に思えるかもしれませんが、90年代の10年間だけで約2,000億ドルという巨額の費用がかかったことを考えると、もはや比較にならないほど低コストであることがわかります。前述の統計資料には、2007年1月時点でのPKO予算の負担国上位20カ国についても書いてありますが、ここでは上位は、実際の派遣に関っていない先進国で固められていることがわかります。勿論、日本(外務省解説)もこの中に含まれています。この中で、実際の派遣要員数で上位10カ国に食い込んだのは、フランス、イタリア、中国だけ(それぞれ★でマーク)です。つまり、先進国はこれまで軒並み、「カネは出すがヒトは出さない」'を実践してきたといえます。 (カッコ内は負担率)
「Top Twenty Providers of Assesed Contributions to UN Peacekeeping Budget As of 1 January 2007」より ※残りの10カ国についてはコチラ ここで日本がPKOを本来任務化したとして、彼ら先進国“並み”に貢献するつもりでいるならば、その為の要員は5,000人を下回るのです。しかもこれは、年間の数です。ミッションごとの派遣要員数はさらに少ないということになります。つまり、今回のイラク派遣要員のミッションごと500名くらいの規模で足りるということです。後は年数によって交代要員がいればよいということですね。 参議院外交防衛委員会調査室が今年5月にまとめた資料によれば、交代要員を入れても、2004年1月16日~2006年7月25日までの2年半のスパンで、日本が陸自の撤退までにイラクに派遣した陸上自衛官の総数は、延べ10回の派遣で5,500名(2007年5月時点では空自部隊が2,430名、海自が330名)で足りています。日本史上最大の派遣でも、陸海空合わせて10,000人に届きません。 陸上自衛隊 5,500名出典:参議院外交防衛委員会調査室 ■UNEPSと自衛隊の相互運用は合憲このような派遣実績の中でUNEPSが創設されると、まず初動で掃討ミッションと文民の安全確保が行われる為、後続のPKOはこれまで以上に大部隊を派遣する必要がなくなります。PKO部隊は現状と同程度の軽装備で治安維持に当たることができ、PKO本来の任務である敵対勢力同士の間に入った調停や停戦監視・治安維持に専念できます。この任務のための兵装は最低限で済みます。しかも、UNEPSは個人参加の混成部隊なので、退役・現役を問わず日本からも自衛官、警察官、消防官、医療関係者、法律家、国際法の専門家などが、国連職員となって個人資格で参加できます。つまり、UNEPSに軍事部門があっても、これに日本国籍の個人が参加することは違憲ではないのです。 自衛隊派遣は、今後もこれまでと同様にその都度、特措法を定め、その中で自衛隊のPKO本来任務化に合わせた武器使用基準などを定めていけばよいのです。地位の問題については、2004年の8月にジュネーブ条約の追加議定書を批准したことなどにより、その地位を国際人道法(戦時国際法)上認められることになります(詳しくは外務省の説明書の項目3を参照)。私は自衛隊の存在自体を違憲とは考えないので、国際法上の交戦団体と認められ、その庇護下に置かれるための体制を国家として整えたのであれば、その地位も保証され続けるものと考えます。 |
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