ボスニアには、国連のPKOだけでなく、NATOも駐留していたし、ロシアも強い関心を持っていました。
確かに、スレブレニツァに駐留していた部隊は少なかったですが。
そこで、UNEPSがボスニアに駐留していたら、スレブレニツァの虐殺の虐殺を止めることができたのでしょうか?
まず、ルワンダとスレブレニツァの状況がそれぞれ異なったという点については私も同意します。地政学的な観点の理由から、それぞれの地域での国連・各国際機関の対応はまるで異なっていました。
しかし、ボスニアの場合は、内戦当事者のどの勢力が悪いと一概に言えず、ある地域ではセルビア人勢力が人道に反する行為を行い、
別の地域ではクロアチア人勢力が、また別の地域ではボスニア政府軍がというように、被害者加害者が入り混じっていました。
そのような状況で、一方の勢力を保護し、一方の勢力と戦うとなると、国連の中立性というものが失われることになります。
まだ存在していない部隊のキャパシティについて論じてもしょうがないので能力面についての議論は割愛しますが、UNEPSはその設立理念として、一方の勢力を保護し戦うという性質のものではありません。
まだUNEPS読本のほんの前文を翻訳しただけで、日本語での説明が足りていないのは私の怠慢に拠るところなのですが、UNEPSはその概念の発展のさなか、同時に「保護する責任」の概念を取り入れ、議員の説明にもあったとおりこの概念から派生した5つの介入原則を採用しています。この介入原則は、 UNEPSの最大の目的である「被害者の保護」のために運用されます。
UNEPSは、従来のPKOのように「加害者と加害者(いずれも武装勢力)の間」に入って調停や武装解除を行う為の集団ではなく、「加害者と被害者(無辜の文民)の間」に入って被害者を保護するための集団なのです。つまり、仮にUNEPSがボスニアに投入されていたら、仰るように各地域で加害者や被害者が違うのですから、各地域に部隊が分散されて各地域の被害者を保護するわけです。つまり、UNEPSが戦う相手はハッキリしているのです。いずれの勢力であれ、無辜の文民を攻撃する者です。
尚、この議論を始めると、イラク戦争でも見られたように、文民を装った民兵、あるいは便衣兵のような存在への対処はどうするか、という問題になります。これは戦術的な話になり各論としてあまりに細かくなるので、のちに専門家に参加してもらって説明できればと思います。近い将来のうちに、この掲示板には紛争処理・武装解除・DDRなどの専門家も招いて皆さんとの各論的な議論も深めていこうと思っています。私や議員は軍事の専門家ではないので、餅は餅屋に任せる所存です。
ボスニアの場合、各加盟国の意志(WILL)の欠如というよりは、国連の中立性を維持しようとした、当時の事務総長特別代表の方針
によるものが大きかったのではないでしょうか。
そうですね、ここですね。中立性。この考え方が、「保護する責任」の概念の導入により、変わりつつあるのだと思います。そういう意味では、歴史にはIFは禁物なのですが、ルワンダやボスニアの時代にUNEPSが存在していたら、それはつまりその当時に「保護する責任」の概念が国際的なコモンセンスになっていたことを意味しますので、これはwishful thinking(希望的観測)といえるのかもしれません。
しかし、国際社会は近年、この「保護する責任」の概念を認め、これを新たな時代の平和構築のコモンセンスとしつつあるので、その中で従来の国連の中立性という基本理念も変容していっているのだと思います。すべては、「無辜の人々のいのちを守る」(保護する責任)という大義の為です。そしてこの大義は、安易な二度と再び(Never Again)人道的介入を許さないという決意のもと、介入5原則により厳格に定義されているわけです。
■UNEPSは上位概念、人間の安全保障の一翼を担う
UNEPS は、国際刑事裁判所ICCに代表される加害者を「罰する責任」と、被害者「保護する責任」の両翼からなる人間の安全保障という大きな傘の一翼を担うものとなります。UNEPSは、人道的介入の倫理的根拠となる「保護する責任」に属し、「加害者と被害者の間に入って被害者を事前に守る手段を講じることを想定した概念」(元国連大学副学長兼「保護する責任」報告書の共同執筆者、ラメシュ・タクール氏の言葉)を具現化したものなのです。この具現化とはつまり、基本理念を忠実に踏襲することを意味します。介入5原則により文民を保護する使命を与えられたUNEPSは、必ずや適切な行動規範に基づいてその使命を果たすでしょう。
以降Yahoo!掲示板のスレッドよりなるほど、少しずつUNEPSのイメージが分かってきました。
無辜の文民を攻撃する者と戦うということは、無辜の文民を攻撃している内戦当事者からみたら、敵を利する行為とうつ
る可能性がありますね。
はい、その辺りのテクニカルな部分は、ここは軍事カテなので皆さんお得意な分野でしょうが、私は不得意なので知ったかぶりは控えます。いずれ軍事の専門家の方をお呼びする予定なので、それまでそういった各論については保留という形でお願いします。
ボスニアでUNEPSは何ができたか?
お話を聞いて、私なりに考えたことは、
1、安保理決議によって設置された「安全地帯」の防衛。
2、人道援助物資の輸送、あるいは輸送部隊の警護、援助物資の配布地域の警護。
3、難民、避難民の保護、安全地帯への輸送。
こんなところでしょうか?
私の理解している限りでは、既存のPKOでは“出来ないこと”をする為の部隊ですので、基本的に上記3つすべてについて、それぞれを実現するための
- (1)実力行使により加害勢力を無力化・武装解除し、
- (2)安全確保が成されたときに後続のPKO部隊に警護・防衛任務を委譲する。
全ての人道に反する行為を止めることは、できなかったかも知れませんが、「スレブレニツァの虐殺」は防ぐこと
ができたかもしれませんね。
仰るとおりです。UNEPSとて万能ではなく、「最強」の部隊でもありません。むしろ、これまでのPKO部隊よりも優先的に交渉や和解の調停 (mitigation)などにより脅威を最小限に抑えつつ(mitigation)、残存する脅威に有効に対応する─というのが、役どころにになると思われます。つまり、戦争そのものよりも“紛争処理”のプロフェッショナル集団・精鋭ということになります。
ただし、相当な規模の部隊の派遣を必要としますね。スレブレニツァにも、PKOは派遣されていたが止められ
なかったわけですから。
それも、派遣されたPKO部隊に有効な交戦規定がなかったせいでしょうね。
基本的にPKOは専守防衛なので、自衛隊が参加するのにもっとも適した平和協力活動の一種だと思うのですが、戦況によっては非常に大きなリスクを孕む部隊でもあります。そのため、日本はたとえ現在の自衛隊にとってPKOが本来任務となっていても、容易に国連のUNSASに登録したり、いつでも自衛隊を派遣できる体制を整えているわけではありません。(参考:UNSAS(国連待機制度)に関する国内資料 -年代順)
仰るとおり、ソマリアでは米軍兵士が多数亡くなりましたし、その他の地域でのPKOでも殉職者がまったく出ないということは殆どありません。このリスクについて、PKOに部隊を派遣する国はみな腰が退けてしまっているのです。サマーワという、厳密に「非戦闘地域」判定した場所にしか自衛隊を送ることのできない日本政府が及び腰になるのも頷けますよね。どこも同じなのですから。
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