2007年6月13日水曜日

犬塚レス3:スレブレニツァの虐殺12

Yahoo!掲示板より
無辜の文民を攻撃する者と戦うということは、無辜の文民を攻撃している内戦当事者からみたら、敵を利する行為とうつる可能性がありますね。

例えば、ある勢力(Aとします)が別の勢力(Bとします)の拠点を攻略し、その過程でA軍がBの民間人を攻撃した場合、UNEPSはBの民間人を保護し、必要であればA軍との戦闘になることもありえますね。

その場合、Aからみたら、UNEPSはBの味方にみえ、AによるUNEPSに対する攻撃が各地で発生するということもあり得、UNEPSが内戦に巻き込まれ、当事者になってしまうこともあり得るでしょう。

そのようなことも想定しているでしょうか?

UNEPSが内戦の当事者になってしまう、イメージとしては、1993年のソマリアにおけるアイディード将軍vs国連軍です。

難しい質問ですね。おっしゃるようにソマリアの失敗はPKOが紛争の当事者になってしまったことだと理解しています。紛争当事者にならずにどのように「保護する責任」を果たすのか。方向性は2つかな。

第一には、伝統的な6.5章タイプの国連の平和維持活動の同意原則に立ち戻りこれを発展させること。

ご存知のように、国連の平和維持活動は国連憲章には規定されておらず、ハマーショルド事務総長らの働きで実現した「敵のいない軍隊」です。憲章6章「紛争の平和的解決」と7章「平和に対する脅威、平和の破壊及び侵略行為に関する行動」の間に位置すると考えられるため6.5章と呼ばれるわけです。こうした「伝統的PKO」で最も大切なのは「同意原則」です。停戦合意などに基づいて紛争当事者の間に割ってはいり、武力行使ではなく、その存在自体によって紛争を防ぐわけです。

それでは実践で培ったこの同意原則を、停戦監視や選挙支援などよりはるかに複雑になった現状の中でUNEPSにどう生かすか。「同意」だなどと言っている間にやられてしまいそうですが、この場合のキーワードは「情報」と「スピード」でしょうか。単なる同意原則ではなく情報で身を守る。スタンド・バイではなくスタンディングの部隊、つまりいつでも展開可能なスピードをもって事態が手におえなくなる前に対応する。すごい変化だと思います。

こうした発展は実現可能だと思います。なぜなら、既に多くのNGOや現場での経験を豊かに持つ人達が、この難しい仕事を実践しているからです。ICRC赤十字国際委員会などに代表されるNGOは、紛争当事者や部族長などとの連絡方法を持ち、丸腰で活動を行う。また日本が成功したアフガニスタンでのDDR(武装解除、動員解除、社会復帰)においても、朝から麻薬でラリっているような武装集団を相手に、丸腰の武官が大きな実績を残しました。

困難な仕事だと思いますが、すでにこうした仕事に取り組み、成功させているプロフェッショナルも存在します。そのような専門家集団が、常に必要な訓練を受け、現地の情報に精通し、必要とあれば紛争地域に、数日や数ヶ月単位でなく、数十時間単位で展開することによってUNEPSが活躍することができる。伝統的PKOで培った同意原則をUNEPSの活動において生かし発展させることができる。そう考えています。

第二は民軍連携です。

警察官は住民と同じ地域に住んでいますが、軍隊は基地の中に住み地域との接触を行いません。そういう意味で私はUNEPSに警察のイメージを重ねています。ただし、軍事の専門家、文民警察、医療、緊急援助、司法、インフラ整備、学校、地方自治など、平和構築にはあらゆる分野の経験が必要です。また、こうした専門家がしっかりした訓練を受けている必要があります。

こうした民軍連携に近い考えとして外務省の「寺子屋」構想がありますが、取り組みとしては大変小さく、これから育てるものです。防衛省では中央即応集団を新編し、ここに教育隊をおいていますが、肝心の中身はこれから。今のところピアソン・センターなどの海外の研修施設に短期、少人数を派遣している状況で、'民'との協力は今のところ考えていないようです。

一方、独立行政法人国際協力機構JICAは経験豊かで、「青年海外協力隊」「シニア海外ボランティア」「ジュニア専門員」などの制度があり、何より緒方理事長がUNEPSに深い理解を示しています。以下は現場を知る緒方さんのUNEPSに対するコメントです。(※訳はトラックバック先を参照)

The UNEPS initiative directly responds to the widely recognized need to protect people caught in deadly conflicts. While serving as United Nations High Commissioner for Refugees, I pleaded on numerous occasions for the rapid deployment of specialized forces. Without such presence, military elements could not be separated in refugee camps; humanitarian corridors were seldom set up to allow the victims safe exits; and all too often, innocent civilians were left in the midst of fighting. Effective, trained and specialized standing forces would have been invaluable."
-Sadako Ogata, Former United Nations High Commissioner for Refugees

日本のことばかり書きましたが、カナダや北欧ではもっと積極的な取り組みがあります。EUも独自にバトル・グループを本年から発足させ、民軍連携に正面から取り組む姿勢です。しかし、今のところ国連の中に個人参加で緊急平和サービスを持つという考えはUNEPS以外にはないようです。

いずれにしてもソマリアやルワンダの失敗を繰り返さないために国際緊急平和サービスを立ち上げなければなりません。そしてそこに果たすべき日本の役割は大変大きなものになると思います。

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